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宮崎地方裁判所都城支部 昭和58年(ワ)75号 判決

原告

深江亨

原告訴訟代理人弁護士

森本耕司

被告

木室進

宮久保久子

被告両名訴訟代理人弁護士

殿所哲

当事者参加人

西日本自家用自動車共済共同組合

参加人代表者代表理事

山本一一

参加人訴訟代理人弁護士

岩崎明弘

主文

一  被告両名は原告に対し各自金九三万八六二六円とこれに対する昭和五八年一月二九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告両名に対するその余の請求を棄却する。

三  参加人と原告との間において、参加人が原告に対し、本件共済契約(後記昭和五九年(ワ)第八六号事件請求原因(一)記載の契約)に基づく本件事故(後記昭和五八年(ワ)第七五号事件請求原因(一)記載の交通事故)の共済金として、第一項記載の額を超える金員の支払義務の存在しないことを確認する。

四  参加人と被告木室進との間において、参加人が被告木室進に対し、本件共済契約(後記昭和五九年(ワ)第八六号事件請求原因(一)記載の契約)に基づく本件事故(後記昭和五八年(ワ)第七五号事件請求原因(一)記載の交通事故)の共済金として、第一項記載の額を超える金員の支払義務の存在しないことを確認する。

五  参加人の原告及び被告木室進に対するその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用については、原告に生じた分はこれを一〇分し、その一を被告両名の、その余を原告の各負担とし、被告両名及び参加人に生じた分は各自の負担とする。

七  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

一  申立

(昭和五八年(ワ)第七五号事件)

1  原告

(一)  被告両名は原告に対し各自金一〇〇〇万円とこれに対する昭和五五年一〇月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決、並びに、仮執行の宣言。

2  被告両名

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

(昭和五九年(ワ)第八六号事件)

1  参加人

(一)  参加人と原告・被告木室進(以下適宜、被告木室という)との間において、参加人と被告木室の間で昭和五五年七月一四日締結した共済契約(以下適宜、本件共済契約という)に基づく本件事故(後記昭和五八年(ワ)第七五号事件の請求原因(一)に記載)に関する共済金の支払債務が存在しないことを確認する。

(二)  参加による訴訟費用は原告と被告木室の負担とする。

との判決。

2  原告及び被告木室

(一)  参加人の請求を棄却する。

(二)  参加による訴訟費用は参加人の負担とする。

との判決。

二  主張

(昭和五八年(ワ)第七五号事件)

1  原告の請求原因

(一)  (本件事故)

原告は、次記の交通事故(以下適宜、本件事故という)により、その場に転倒して傷害を受けた。

昭和五五年一〇月四日午前一〇時四五分頃、宮崎県えびの市大字栗下一二九二番地先路上において、道路西側(えびの市役所)から道路に進出して来た被告宮久保久子(以下適宜、被告宮久保という)運転の普通貨物自動車(登録番号宮崎四四ふ一三〇〇)(以下適宜、本件自動車という)と、路上を南から北へ直進中の原告運転の自転車が衝突した交通事故。

(二)  (責任原因)

(1) (被告宮久保の責任)

本件事故は、被告宮久保が本件自動車を運転して道路に進入する際に、自動車運転者としては一旦停車する等して前方及び左右を十分に注視し進路の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と本件自動車を進行させて急に道路に進入した、という過失により起つた。

(2) (被告木室の責任)

被告木室は、本件自動車を所有し日頃から自己の営む製麺業に使用しており、本件事故の際も、これを麺類の配送という自己の営業の為に従業員である被告宮久保に運転させて自己の為に運転の用に供していた。

従つて、同被告は、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故の人身損害を賠償する義務がある。

(三)  (損害)

(1) (原告の傷害内容等)

① 原告が本件事故により受けた傷害は、顔面、左上腕・胸部・腰部打撲、頸椎挫傷、頭部打撲症、頸椎椎間板症、頸部・背部・腰部痛、左下肢知覚障害等であり、原告は、その治療の為に、次記〈編注・下表〉のとおり計一九一日間の入院と計六〇二日間の通院とを余儀なくされた。

② 右治療にもかかわらず、原告には、頸部・腰部痛、左下肢のしびれ・疼痛、両手の脱力が残存し、歩行障害(約五分間しか歩けない)等の後遺症が残り、これにより、原告の服する労務は相当程度制限されるものとなつた。

原告の右後遺症は、少なくとも後遺障害別等級表(自賠法施行令二条)の第九級の後遺症に該当する。

(2) (損害の算定)

本件事故により原告が右傷害を被り、その治療を受け、後遺症が残つたことによる損害は、次の①乃至⑧の計金一七四七万五七五八円とこれに加算されるべき次の⑨の弁護士費用の合計となる。

① 治療費 金一七八万六二二四円

前記各病院での治療費で昭和五五年一〇月四日から昭和五七年六月五日までの分であり、この内には、原告が右京町温泉病院入院中に差額ベッドの使用を余儀なくされたことによるベッド使用料(差額分)金三万九四八四円を含む。

② 入院中の諸雑費 金一五万二八〇〇円

原告が右入院期間計一九一日の間に入院生活を維持の為に出費を余儀なくされた日用品、身の回り品、通信費、その他の雑費で、これは少なくとも一日平均八〇〇円を下ることはない。

③ 通院の交通費 金一〇万三六二〇円

期間(昭和・年・月・日)

日数

治療態様

病院名

55.10.4~55.10.5

二日

通院

斉藤外科

55.10.6~56.1.31

一一八日

入院

京町温泉病院

56.2.1~57.3.27

四二〇日

通院

京町温泉病院外

57.3.24~57.6.5

七四日

入院

南風病院

57.6.6~57.12.3

一八一日

通院

南風病院

前記各病院での加療通院に要した交通費で明細は次のとおりである。

京町温泉病院分(入退院・通院二〇一日) 金八万四九二〇円

池井病院分(通院一日) 金四六〇円

宮崎県立病院分(通院一日) 金四八〇〇円

南風病院分(入退院・通院五日) 金一万三四四〇円

④ 付添費用 金一九万九五〇〇円

原告が右京町温泉病院入院中原告の妻深江チヨが計五七日(回)通院のうえ付添看護を余儀なくされたもので、これに要する費用は少なくとも一日(回)金三五〇〇円を下らない。

⑤ 休業損害 金五一一万三二六四円

原告は本件事故当時、酒・タバコ・食料品の販売店を経営しており、事故の年の所得は金二三五万九八一四円であり、同年の一日平均収入は金六四四八円となる。

原告は本件事故により症状固定までの七九三日間につき、入院期間一九一日通院実日数二〇九日の計四〇〇日は仕事を完全に休み、その余の通院期間も安静の為仕事が出来なかつたから、結局、本件事故により右七九三日間完全に休業を余儀なくされた。

従つて、右休業による損害は、右平均日収の右休業期間分として、金五一一万三二六四円となる。

⑥ 後遺症による逸失利益 金四二四万〇三五〇円

原告は、本件事故により後遺障害別等級表(自賠法施行令二条)第九級に相当する前記後遺症が残り、これにより労働能力の三五パーセントを喪失した。

原告は大正六年七月九日生れの男子で、前記症状固定時である昭和五七年一二月二日当時の年齢は満六五歳であつて、就労可能年数六年、そのホフマン係数(年五パーセントの中間利息控除)は五・一三四であり、当時の年収は前記金二三五万九八一四円である。

従つて、右後遺症による原告の逸失利益は、次の算式のとおり金四二四万〇三五〇円となる。

(二三五万九八一四円×五・一三四三×〇・三五=四二四万〇三五〇円)

⑦ 入院通院による慰謝料 金一七〇万円

原告は本件事故による前記傷害により入院約四カ月、通院約一一カ月の筆舌に尽し難い肉体的精神的苦痛を受けた。この慰謝料は金一七九万を下らない。

⑧ 後遺症による慰謝料 金四一八万円

原告は後遺障害別等級表(自賠法施行令二条)第九級に相当する前記後遺症が残存し、生涯これによる肉体的・精神的苦痛を背負うこととなり、これらの苦痛は金銭に替え難いものであるが、その慰謝料としては少なくとも金四一八万円を下らない。

⑨ 弁護士費用

原告は、本件事故による右損害賠償請求権に基づき、被告両名に対し、再三にわたりその支払の催告を為したが、被告両名はこれに応ぜず見舞いや詫びの言葉もないので、原告は昭和五八年六月二日やむなく専門家である原告訴訟代理人に本件を委任して本訴に及んだ。右弁護士費用は、本件裁判による認容額の一二パーセントを下らないと約しており、右額相当の損害も生じている。

(四)  (本訴請求)

よつて、原告は、被告宮久保に対しては右不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告木室進に対しては自賠法三条に基づき、それぞれ右損害金の内金として金一〇〇〇万円とこれに対する遅延損害金(本件事故日である昭和五五年一〇月四日起算、民法所定の年五分の割合によるもの)との支払いを求める。

(五)  なお、後記2(二)の被告両名の主張は争う。

2  請求原因に対する被告両名の認否及び主張等

(一)  (認否)

請求原因(一)(本件事故)については、事故の概要は認める。但し、被告宮久保運転車両と原告自転車とは軽く接触したにすぎない。

同(二)(責任原因)については争う。

同(三)(損害)については不知。

同(四)(本訴請求)は争う。

(二)  (主張)

(1) 本件事故による原告の受傷は軽微なものであり、これと原告主張の後遺症及び損害との間に因果関係は存在しない。

仮に、原告に本件事故による損害があつたとしても、本件事故については原告にも重大な過失があり原告の過失割合は少なくとも五〇パーセントを下らないから、過失相殺されるべきである。

右の点は次の①乃至③の事情に照らし明らかである。

① 被告宮久保は、本件事故当時、前記普通貨物自動車を運転してえびの市役所からその前面道路に進入する際、前面道路の側溝手前で一旦停止し左右の安全を確認したが、原告は自転車に乗つて同被告運転車両に接近して来て同車両に軽く接触したものであること。

② 被告宮久保運転の右車両は、当時、新車であつたが、原告自転車と接触しても傷一つ見つからなかつたこと。

③ 原告の当初の診断書によると全治四乃至五日間の加療を要するものとなつていること。

(2) 原告主張にかかる昭和五五年一〇月から昭和五七年六月までの間の原告の治療費金一七四万六七四〇円については、内金一二二万二七一九円は国民健康保険の保険者であるえびの市が負担しており、原告自身の負担は内金五二万四〇二一円に過ぎない。

また、原告は、本件事故による損害の填補として、えびの市農業協同組合の自賠責共済から、次記①乃至③のとおり計金二一五万円の支払を受けており、原告の損害からこれを控除すべきである。

① 昭和五五年一二月二九日金二〇万円(但し、仮渡金)

② 昭和五六年九月一六日金一二〇万円

③ 昭和五八年一月二八日金七五万円(但し、後遺障害金)

(3) よつて、被告両名は、原告の本訴請求には応じられない。

(昭和五九年(ワ)第八六号事件)

1  参加人の請求原因

(一)  (本件共済契約)

参加人と被告木室は、昭和五五年七月一四日、共済期間を昭和五六年七月一四日までとして、同被告所有の自動車の使用に関して発生した損害(但し、自賠責保険による填補額を超過する部分の損害)を填補する目的で、自家用自動車共済契約(以下適宜、本件共済契約という)を締結した。

(二)  (免責約款)

本件共済契約に基づく参加人と共済契約者である被告木室との間の権利義務関係は普通共済約款(以下適宜、本件約款という)によるべきところ、本件約款一四条(事故発生時の義務)には「共済契約者又は被共済者は、事故が発生したことを知つたときは、参加人に対し、事故発生の日時・場所、事故の概要等を遅滞なく書面で通知すること」との旨定められており、これを受けて同一五条、一六条(免責事由)には「正当な理由なく右通知を怠り、六〇日を経過したときは、事故に関する損害金(共済金)を支払わない」との旨定められている。

(三)  (免責事由の存在)

本件事故について、共済契約者である被告木室及び被共済者である原告は、事故発生後約一年六カ月を経過した昭和五七年三月二四日になつて初めて、参加人に対し本件事故発生の通知をしたものであつて、これは本件約款の右免責事由に該当する。

(四)  (予備的主張)

仮に、参加人の右主張が認められないとしても、原告の請求は、本件事故と因果関係のない損害についての過当な請求である。

(五)  (本訴請求)

よつて、右免責約款により、参加人は本件事故について損害填補のための共済金の支払義務がない(予備的に、本件事故と因果関係のある原告の損害で被告木室主張にかかる前記自賠責任共済による填補額を超過する損害もない)ところ、原告及び被告木室は参加人に対し参加人において本件共済契約による右共済金の支払義務があるとの旨主張(但し、被告木室は原告の昭和五八年(ワ)第七五号事件における前記請求額のうち認容される額につき仮定的に主張)するので、参加人は原告及び被告木室に対し右支払義務の存在しないことの確認を求める。

2  請求原因に対する原告及び被告木室の認否及び主張

(一)  (原告の認否)

請求原因(一)(本件共済契約)は認める。

同(二)(免責約款)は認める。

同(三)(免責事由の存在)は否認する。

同(四)(予備的主張)は争う。

同(五)(本訴請求)は争う。

(二)  (被告木室の認否)

請求原因(四)(予備的主張)は認め、その余は、右(一)(原告の認否)と同じ。

(三)  (原告の主張)

原告が被告木室に対し、本件事故による損害賠償請求権を有することは、昭和五八年(ワ)第七五号事件請求原因で主張のとおりであり、これについて、参加人は原告に対し本件共済契約に従つた共済金の支払義務が存する。

(四)  (被告木室の主張)

(1) (参加人への本件事故の通知の存在)

参加人は、本件約款所定の六〇日以内に本件事故発生についての通知を受けていた。

即ち、被告木室は、昭和五五年一〇月頃訴外行政書士上野博暉に対し、本件事故に関する保険金請求手続を依頼し、これを受けて、同訴外人は、本件事故後四〇日目位及びその一週間位後の二度に亘つて、参加人の宮崎支店に対し、本件事故につき電話連絡し、また、その頃、当時参加人のえびの代理店をしていた訴外大山不二男に対しても本件事故発生を電話連絡した。更に、右訴外上野博暉は、昭和五五年一二月頃同訴外人の事務所で参加人宮崎支店の五代和義と会つて本件事故につき話合をし、その際、同訴外人から「任意保険に及ぶ場合は頼む」、右五代和義から「自賠責保険の方をよろしく頼む」、との旨のやりとりがあつた。従つて、参加人は本件事故の発生を本件約款所定の六〇日以内に知つていたのであり、被告木室も右のとおり訴外上野博暉を介して参加人に連絡していたのであるから、被告木室に本件約款所定の通知義務違反はない。

(2) (本件約款の効力の限度)

本件共済契約において、事故発生の通知を被保険者(契約者)に義務付けた趣旨は、保険者(参加人)をして、損害の原因調査、損害の種類・範囲の確定、損害拡大の防止等の善後自衛の措置を講ずる機会を得さしめる点にある。

そして、右通知を怠つた場合の効果は、右通知義務条項の趣旨からみれば、当然に保険者(参加人)の全面的な免責を生ぜしめるものではなく、右通知義務違反によつて保険者(参加人)が損害を被つたことを証明した場合に被保険者(契約者)がその損害を賠償する義務を負うというものである。

従つて、右通知義務違反を受けた保険金(共済金)不払条項は、右通知義務違反があつた場合に当然に保険者(参加人)の保険金(共済金)全額不払を認めたものではなく、保険者(参加人)において、右違反による損害額を支払うべき保険金(共済金)から控除することができることを規定したものに過ぎない。

本件では、仮に、被告木室進が参加人に対し本件事故に関する通知が遅れたとしてもそれによる参加人の損害はなかつたから、本件約款を楯に、参加人が本件事故の保険金(共済金)の支払を拒むことは出来ない。

(3) (共済金支払拒絶の信義則違反)

原告の本件事故による受傷の程度は軽傷であり、当初全治四乃至五日とみられたものに過ぎなかつたが、その後、原告の治療が長引いて来た。

そこで、右訴外上野博暉は、昭和五六年初め頃、参加人に対し、本件事故の任意保険金(共済金)の請求に関する一件書類を送付したところ、参加人の担当者は、本件事故について、「六〇日以内に連絡がなかつた」、「参加人の原簿(事故受付処理台帳)に記載がない」、「被告木室本人から事故発生の連絡を受けていない」等と言つて、右書類を受理せず、右訴外人に返送した。

その後、昭和五六年七月頃、被告木室は、本件事故の賠償問題について、当時参加人えびの代理店であつた前記大山不二男に相談したところ、同人は、同被告に対し「原告の請求額が大きいので示談に応ぜず原告が裁判を起こすのを待つように、裁判結果に従い参加人が最終的に支払う」との旨助言し、その後昭和五七年四月二六日、本件事故の調査に来た参加人福岡支店の担当者岩切徹も、被告木室宅において、同被告に対し、「任意保険金は出る」との旨告げていた。

前記(1)のとおりの口頭や電話による事故通知に加えて、右のような事情がある本件において、本件約款所定の事故発生後六〇日以内の書面による通知がなかつたとしても、これにより参加人が本件事故についての共済金を支払わないのは信義則に反し許されない。

(4) (参加人の共済金支払義務の条件付存在)

よつて、参加人が本件事故の共済金の支払を拒みうる理由はないから、仮に、被告木室が前記原告主張にかかる本件事故による損害賠償義務を負担する場合には(その場合には被告木室は右損害賠償義務を負担する限度で原告の主張を援用する)、参加人は、本件共済契約に基づき、被告両名に対し、その損害賠償金に相当する共済金の支払義務がある。

3  原告及び被告木室の右各主張に対する参加人の認否及び反論

(一)  (原告の主張に対する認否)

原告の主張は争う。

(二)  (被告木室の主張に対する認否)

被告木室の主張(1)(参加人への本件事故の通知の存在)については、被告木室が本件事故の解決につき訴外上野博暉に依頼した点を認め、その余は否認。

同(2)(本件約款の効力の限度)については、第一段落(本件共済契約の約款の通知義務の趣旨)は認め、その余は争う。

同(3)(共済金支払拒絶の信義則違反)については否認。

同(4)(参加人の共済金支払義務の条件付存在)は争う。

(三)  (被告木室の主張に対する反論)

本件約款所定の通知義務条項及び免責条項は、現在、各損害保険会社に共通なもので、その趣旨は、保険会社は事故の発生について重大な利害関係を持つている反面で通常は一般的に事故の発生を知りえない立場にあるので、保険契約者又は被保険者に事故の発生を知つたときその旨の通知することを義務付け、これにより、保険会社が事故原因調査や事故車の損害立会調査を迅速にしうるようにし、特に、人身事故については、特則をもつて通知すべき期間を設け、速やかに治療期間の相当性や因果関係の調査を為して適正な損害を把握しうるようにし、もつて健全な保険経営を維持するための手立てとするところにある。

これを本件についてみれば、参加人が本件事故を知つたのは、事故後一〇カ月を経過した昭和五六年八月頃であつて、その時点では、本件事故の原因・損害についての調査や損害拡大防止措置をとることは既に不可能な状態であり、参加人としては著しい不利益を被つており、また、原告・被告木室が本件約款所定の通知を怠つた事情は、原告・被告木室の一方的な過怠によるもので、本件約款一六条但書にいう通知しなかつたことについてのやむえない事由は存しない。

従つて、参加人の本件事故共済金の支払拒絶には理由があり、信義則違反或いは権利の濫用には該らない。

三  証拠〈省略〉

理由

一本件事故の発生

本件事故の発生と原告の受傷については、原告の受傷内容及び本件自動車と原告の自転車とが接触した時の衝撃の程度の点を一先ず措けば、原告と被告両名との間においては、昭和五八年(ワ)第七五号事件請求原因(一)(本件事故)のとおりであることで当事者間に争いがなく、原告・被告両名と参加人との間においては、〈証拠〉によれば、原告と被告両名との間に争いがない右事実と同一の事実が認められる。

二本件事故の態様及び原因

1(一)  本件事故の状況については、右一の事実と、〈証拠〉とによれば、次の(1)乃至(4)の事実が認められる。

(1) 本件事故の際、被告宮久保運転の本件自動車は一旦停止せずに徐行してえびの市役所構内から西側の南北に通る幅約五・五メートルのアスファルト舗装の市道に進出し、原告運転の自転車は右市道の同市役所側(進行左側)端付近を南から北へゆつくり直進して来たこと。

(2) 事故の際、市道の同市役所側端から約〇・八メートル付近の路上において本件自動車の前面の中央部付近と右自転車を運転していた原告の右腰付近とが接触し、本件自動車は一メートルも進まないうちにすぐに停車したが、右自転車は本件自動車の前方約〇・七メートル付近の路上に横転し、原告は、右自転車の約一メートル横の右市道中央付近路上に転倒して右半身を打つたこと。

(3) 本件事故の現場においては、被告宮久保も原告も、余裕を持つて相手方を確認しうる位置関係にありながら、本件事故直前まで相手車両の存在に気付いた形跡がなく、双方に直前の衝突回避行動が見られないこと。

(4) なお、本件事故直後の警察官による実況見分の際には、本件事故現場の路上等に本件自動車のスリップ痕もなく、本件自動車の車体に接触の痕跡が見当らなかつたこと。

(二)  右の事実によれば、本件事故時の接触の態様は、本件自動車が、スリップ痕もなく数メートル内で停止するような低速度で、自転車でゆつくりと進行して来た原告の左腰付近に接触し、原告を自転車ごと若干押し出すような形で路上に転倒させたもの、と認められる。

2  なお、被告らは、本件事故の状況は本件自動車が一時停止しているところへ原告運転の自転車がぶつかつて来たものである、と主張するが、被告宮久保が一時停止していながら原告の自転車に気付いていないことは考えにくいうえ、右衝突転倒の位置関係は自転車側の横を自動車側が押したとみられるものであり、かつ、第三者の目撃者である右証人山口正徳も右1の認定事実に副う状況を証言しており、これらに照らせば前記1のように認められるのであり、前記甲第一号証中の本件自動車の一時停止場所の記載は被告宮久保の指示に基づくもので当時同被告が一旦停止したと述べていたことを示す以上のものではなく、また本件事故の現場に本件自動車のスリップ痕が見当らなかつたことも本件自動車が徐行していたことと矛盾するものではなく、いずれも右認定を左右するものとはならず、他に右認定を覆すに足る証拠はないから、本件事故の状況についての被告らの右主張は採用できない。

3 従つて、前記一及び右二1の各事実によれば、本件事故については、被告宮久保において、本件自動車を運転して路外から道路へ進入するに際し進路の安全を十分確認せず原告運転の自転車が道路を直進して来るのを見落とした、という過失があり、また、原告においても前方注視を怠つて本件自動車に気付かなかつた点に考慮されるべき過失があり、これらの過失が本件事故の原因になつた、というべきである。

三本件事故の責任

1 右二によれば、被告宮久保は、右二のとおり本件自動車運転中の過失により本件事故を引き起した者として、民法七〇九条により、原告の本件事故による損害を賠償する責任がある、というべきである。

2  また、被告木室については、〈証拠〉によれば、同被告は被告宮久保の運転していた本件自動車の所有者であつて被告宮久保は原告の指示により原告の業務の為に本件自動車を運転していた、と認められ、これによれば被告木室は本件自動車の運行供用者であるといえるから、被告木室は、自動車損害賠償保障法三条により、原告の本件事故による人身損害につき賠償する責任がある、というべきである。

3  そして、原告においても右二のとおり本件事故の原因となつた過失があるところ、その過失と被告宮久保の前記過失とを勘案斟酌し、原告の本件事故による損害の一割を控除するのが相当である。

四原告の損害

1  (本件事故による人身損害の範囲)

ところで、原告が本件事故により受傷したことは、前記一のとおりであるが、その傷害の内容及び事故後の原告の受けた治療について本件事故と因果関係を有する範囲について争いがあるので、この点を検討する。

(一)  原告の本件事故後の治療状況等については、〈証拠〉によれば、次の(1)乃至(8)の事実が認められ、右認定に反する〈証拠〉は他の証拠に照らし採用できず、その他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(1) 原告は本件事故当日である昭和五五年一〇月四日から後遺障害の診断を受けた昭和五七年一二月二日までの間に、次記〈編注・左表〉のとおり、入院計一九一日、通院計二〇七日に及ぶ医師の治療を受けたこと。

期間

病院

入通院日数

病名(追加病名)

55.10.4

斉藤外科

通院   一日

右下顎右膝打撲擦過創兼頸椎捻挫

55.10.6

京町温泉病院

通院   一日

顔面左上腕胸部打撲兼頸椎捻挫

55.10.7~56.1.31

京町温泉病院

入院一一七日

(頭部打撲55.10.6以降)

(高血圧症55.12.1以降)

56.2.1~57.3.27

京町温泉病院

通院二〇一日

(腰椎変形症56.9.24以降)

(左下腿皮膚炎56.10.28以降)

56.9.29

県立宮崎病院

通院   一日

頸部及腰部痛

56.10.20

池井病院

通院   一日

変形性頸・腰椎症及び打撲傷

57.3.24~57.6.5

南風病院

入院  七四日

動脈硬化症高血圧症・腰椎頸椎椎間板症・

胃潰瘍壊痕・S字状結腸過長症(湿疹57.5.6以降)

57.6.6~57.12.2

南風病院

通院   二日

(2) 原告は、昭和五五年一〇月四日、本件事故直後に斉藤外科へ行き、頭部顔面肘関節につきレントゲン検査を受けたが骨折はなく、右下顎・右膝打撲擦過創兼頸椎捻挫との病名で加療四乃至五日間を要するとの医師の診断と治療を受け、直ちに本件事故現場に戻つて実況見分に立会い、事故の様子について指示説明をしたが、帰宅後具合が悪くなつたこと。

(3) 原告が右京町温泉病院に入通院中には、本件事故による傷害の治療として、薬物・牽引・温熱等の療法が施され、外に本件事故外の治療も為されたが、これを診療報酬で見ると、同病院入院関係は総額が金七〇万九七〇〇円でうち本件事故外分が金八五三〇円、同通院関係は総額が金四二万二〇九〇円でうち本件事故外分が金三万九九七〇円、となつていること。また、原告の前記(1)記載の各入通院のうち右京町温泉病院以外は、その診療報酬の計算をみる限りは、全額本件事故による傷害の治療とされていること。

(4) 原告が前記県立宮崎病院及び池井病院に行つたのは、何か良い治療法はないかと考えて行つたのであるが、右京町温泉病院と同じ治療法であつた為に、いずれも一回で通院を止めたこと。

(5) 原告が前記南風病院に行つたは、胃の出血の為であつたが、その際に頸部腰部痛について脊髄に薬物注入するという新治療法を聞き、これを試みること等の為に同病院に入院し、その約一週間位後に右新治療法を試みたが体質に合わず直ちに中止し、その後二カ月余はリハビリ(牽引)と薬物療法を受けたものの改善が見られず退院し、以降は退院の翌日と後遺障害診断を受けた時の二回だけ通院したこと。なお、原告は、右退院の前後頃に、本件事故について任意保険(本件共済契約)からの支払を受けられない旨の話を聞いていること。

(6) 原告は、昭和五七年一二月二日、本件事故の後遺障害の診断として、右南風病院の整形外科医師川崎哲郎から、傷病名「頸椎椎間板症、腰椎椎間板症、頸部・背部・腰部痛あり、理学薬物療法病」、後遺障害の内容「頸部、腰部痛、歩行障害(約五分位しか歩けない)、左下肢のシビレ、疼痛、両手の脱力」、症状固定日昭和五七年一二月二日、との旨の診断を受けたこと。

(7) 原告は、右京町温泉病院退院後の昭和五六年二月頃からは、入通院以外の時は家に居て妻が配達のときの店番程度をし、昭和五八年春頃からは店番の外に自転車に乗つて軽量物の配達程度なら出来るようになつたが、現在の症状については腰と首が悪く左の足と指が針突いたように痛いとの旨説明していること。

(8) 原告は、本件事故時の年齢は満六三歳(大正六年七月九日生)であるところ、本件事故前から高血圧の持病があつて昭和四六年頃から治療を受け始め本件事故の前年の昭和五四年には同年八月までの間毎月数回の割合で通院して薬を貰つており、また、本件事故前の昭和五四年七月二三日には約二メートルの高さから落下して下のコンクリートに後頭部を打ち、頭部打撲挫創・頸椎捻挫・右肩部脊部打撲との病名で前記斉藤外科に約一カ月半入院して治療を受けた病歴を有すること。なお、原告は、右退院頃以降は病院へ行つておらず、右各病状については、少なくとも本件事故当時には一応の安定を見ていたもの、と推定されること。

(二)  右の各事実によれば、本件事故と原告の受けた治療等との因果関係について、次の(1)乃至(4)のようにいうことができる。

(1) 原告の前記入通院による各治療は、前記京町温泉病院における高血圧症等の治療分を除けば、医師が本件事故の傷害の治療として為しており、また、原告が本件事故後の自己の病状に対しその改善を期待して治療が長引きまた効果のありそうな治療を求めて多方面の医師の診療を受けることについてはある程度はやむをえない面もあり、右治療(医師が本件事故外とする分を除く)は、特段の事情がない限り、本件事故と因果関係を有するもの、というべきである。

(2) 原告の右各入通院による治療は本件事故の態様に照らし通常予想される期間に比べて長期に及ぶものであり、その治療中に高血圧症・腰椎変形症・動脈硬化症・胃潰瘍壊痕等々の当初の診断には見当らない症状が出現してこれに対する治療も為されており(但し、右京町温泉病院における高血圧症等の治療は本件事故外の扱いで為されている)、また、前記後遺傷害診断の中には理学薬物療法病というような診療自体から生じたとみられる病名も存すること、に照らせば、右長期化した治療の中には本件事故による直接の傷害以外の部分も相当含まれているとみられるが、本件立証上、その部分を個別的に判別できない。

(3) 原告の治療がこのように長期化したこと及びその間に二次的とみられる病状も派生したことについては、原告のかねてからの高血圧の持病、本件事故の前年に前記頸椎捻挫等で入院した病歴、及び、頸椎腰椎の年齢的変化、が相当程度の影響していることは否定できないが、本件立証上、その影響を具体的に量ることはできない。

(4) しかしながら、原告の右治療の原因となつた病状については、全体的に観察すれば、本件事故とそれ以外の要因(原告の病的素因等)とが同等の重みをもつて関係している、ということはできる。

(三)  右(二)によれば、原告の前記入通院による治療とその原因となつた病状及び後遺障害について、本件事故がその二分の一の割合で寄与している、と認めるのが相当である。

2  (損害の算定)

そこで、原告の本件事故による人身損害につき、順次算定する。

(一)  (治療関係費用)

(1) 原告が本件事故後、昭和五五年一〇月四日から昭和五七年一二月二日までの間に入院計一九一日・通院計二一〇日に及ぶ治療を受けたのは、前記のとおりであるところ、〈証拠〉によれば、右入通院の間の本件事故による原告の傷害の治療関係の診療費として総額金一七四万六七四〇円を要し、その七割に相当する金一二二万二七一九円が国民健康保険から支払済であること、が認められ、従つて、残金五二万四〇二一円が原告の負担分と認められる。

右入院通院に要する交通費については、前記認定事実〈証拠〉によれば、昭和五八年(ワ)第七五号事件請求原因(三)(1)③のとおり計金一〇万三六二〇円と認める。

入院期間中の雑費として一日金八〇〇円程度を要するのは明らかであるから、原告の前記計一九一日の間に要する入院雑費を金一五万二八〇〇円と認める。

(2) なお、原告は、前記京町温泉病院入院中の差額ベッド代についても損害として主張するが、右差額ベッド代がやむをえなかつた特段の事情についての主張立証がない以上、これを本件事故と相当因果関係のある損害ということはできない。

また、原告は、原告が右京町温泉病院入院中に妻が通いで付添した費用についても損害として主張するが、医師から付添の指示がある等の付添を必要とする特段の事情も見当らないから、これを本件事故と相当困果関係のある損害ということはできない。

(3) 従つて、原告の前記入通院治療関係の費用としては、右(1)の計金七八万〇四四一円に前記1の寄与割合二分の一を乗じた金三九万〇二二〇円(端数切捨、以下同様)を、本件事故と相当因果関係がある損害賠償と認める。

(二)  (逸失利益関係)

(1) 原告の本件事故当時及び事故後の営業状態に関しては、〈証拠〉によれば、原告は、本件事故当時、妻深江チヨを家族専従者として、酒・雑貨類販売業を営んでおり、原告が配達等外回り、妻が店番・帳簿等店内、と仕事を分担し、外回りに力を入れた営業をしていたところ、昭和五五年の売上は金一三二四万余円、粗利益金二三五万九八一四円、経費差引後の利益金一四八万二六一五円、各種控除後の所得金六六万七六一五円、となつており、本件事故後前記南風病院の通院を止めた昭和五七年六月六日までの前記1(一)(1)の認定のとおりの入通院期間中は、原告は入通院時以外は時々店番をする程度で家で安静にしていることが多く、専ら妻一人が業務に従事して配達を控え店売りに頼つて営業していたが、この間に右営業の売上等の減少はみられなかつたこと、が認められ、右認定に反する〈証拠〉は他の証拠に照らしたやすく採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実によれば、本件事故前の原告の右営業による収入は、右経費差引後の利益であり、これに対する原告の寄与割合は六割とみるのが相当であるから、その額は年間金八八万九五六九円となるところ、右入通院期間中の原告の右営業への寄与は、右入院期間中は全くなく、右通院期間中は本件事故前の寄与割合の更に一割の寄与、とみるのが相当であり、右原告の寄与の減少分を妻が代替して稼働したものとみるべきである。

従つて、右入通院期間中の原告の休業による損害としては、原告の右期間中寄与の減少分として、本件事故日から右昭和五七年六月六日までの間の計六一一日間につき、右入院期間計一九一日については右年間金八八万九五六九円の割合で、右昭和五七年六月六日までの通院期間計四二〇日については右額の九割の割合で、各計算すると、計金一三八万六七五二円ということになり、このうち本件事故と相当因果関係を有する損害は、これに右入通院治療とその傷害に対する本件事故の前記寄与割合二分の一を乗じた額として、金六九万三三七六円と算定される。

(2) 前記1(一)(6)(7)の事実と原告本人尋問の結果によれば、原告が診断を受けた前記後遺障害は、後遺障害等級表第一二級にいう局部に頑固な神経症状を残すものにほぼ相当するもので、これにより稼働能力の一四パーセントを喪失した、というべきである。

そして、前記1(一)(5)乃至(7)の事実と〈証拠〉によれば、原告の前記後遺傷害の診断では昭和五七年一二月二日症状固定としてあるが、その症状は原告が前記南風病院への通院を止めた当時から存し、当時原告は既に本件事故以来約一年八カ月もの間継続して治療を受けていてそれ以上治療を受けても症状に改善のみられない状態になつており、原告はその後は治療を受けていないが症状は自然に幾分か軽快する方向にあつたこと、が認められ、これによれば、右後遺障害の症状固定の時期は、右通院を止めた当時である昭和五七年六月六日と推認することができ、これ反する前記甲第一六号証の右症状固定時期の記載は単にその診察日を記したものとみるべきで右事情に照らし採用できず、また、右後遺障害の存続期間も右認定事実に照らし症状固定後五年間と推認するのが相当である。

従つて、原告の前記収入額金八八万九五六九円に基づき右一四パーセントの喪失が五年間継続するものとしてホフマン計数四・三六四により中間利息控除をすると、右後遺障害による逸失利益は、金五四万三四九一円となり、このうち本件と相当因果関係を有する損害は、前記寄与割合二分の一を乗じた金二七万一七四五円と算定される。

(三)  (慰謝料関係)

前記1(一)の治療状況とその原因となつた病状及び後遺障害これに対する本件事故の前記寄与割合その他諸般の事情を勘案すると、前記計六一一日間の入通院(入院一九一日、通院期間四二〇日、実通院日数二〇六日)に及んだ治療とその原因になつた病状及び前記後遺障害(いずれも本件事故の寄与は二分の一)に対する慰謝料としては、それぞれ、金八〇万円ずつ、計金一六〇万円を認めるのが相当である。

(四)  (弁護士費用)

後記四3の認定事実及び弁論の全趣旨によれば、原告と被告木室はともに株式会社宮崎県交通福祉協会えびの支部の会員であつて同支部長に本件事故関係の保険金請求手続を一任していたところ、本件事故の損害賠償問題については、同支部長が参加人に対し所定の本件事故発生の通知をしなかつたことから本訴提起を必要とする紛争になつたものであつて、原告或いは被告木室が本件事故後直ちに参加人に対し本件事故の通知をしておけば後記4記載の本訴認容額程度の金額であれば参加人との間で本件事故の共済金の支払により容易に解決したであろうとみられるのであり、その限りでは、弁護士に委任して訴訟をしなければならなくなつたことの原因は専ら原告側に責任のある事由にあるのであり、その外に本件の事案の内容、訴訟経過、及び後記4の認容額等を考慮しても、本件においては、弁護士費用を本件事故と相当因果関係のあるものとは、認めることはできない。

3  (損害の填補)

〈証拠〉によれば、本件事故の損害の補填としてえびの市農業協同組合の自動車損害賠償責任共済から原告に対し、昭和五五年一二月二九日金二〇万円、昭和五六年九月一六日金一〇〇万円、昭和五八年一月二八日金七五万円、の計一九五万円が支払われていることが認められ、右共済から本件事故に関して原告に対し右以上の支払いがあつたことについてはこれを認めるに足る証拠がない。

4  (損害額)

以上により、原告の被告両名に請求しうる本件事故の損害賠償金額を算定すると、右2によれば、治療関係費用金三九万〇二二〇円、逸失利益金九六万五一二一円、慰謝料金一六〇万円、となり、その合計は金二九五万五三四一円となるところ、これに前記三3のとおり一割の過失相殺をした残額は金二六五万九八〇六円となり、更に右四3の損害填補額金二一五万円を次記〈編注・下表〉のとおり損害金・元金の順番に充当すると、その残額は、昭和五八年一月二八日現在で金九三万八六二六円と算定される。

年月日

支払額

日数

損害金

残元金

55.10.4

………

………

…………

二七〇万五八六九円

55.12.29

二〇万円

八七日

三万一六九九円

二四九万一五〇五円

56.9.16

一〇〇万円

二六一日

八万九〇七九円

一五八万〇五八四円

58.1.28

七五万円

四九九日

一〇万八〇四二円

九三万八六二六円

五本件共済契約及びその免責事由の存否等

1  (本件共済契約等)

本件共済契約の締結及びその免責約款の存在については、昭和五九年(ワ)第八六号事件の請求原因(一)、(二)のとおりであることで、参加人と原告及び参加人と被告木室との間でいずれも争いがない。

2  (事故発生通知)

(一)  そして、参加人・原告・被告木室の各弁論に照らせば、原告と被告木室のいずれも、本件共済契約の右免責約款所定の「書面による参加人に対する事故発生通知」を所定期間である事故発生から六〇日以内に為していないことが認められる。

(二)  これについて、被告木室及び原告は、代理人上野博暉が参加人の宮崎支店に対し本件事故発生から四〇日目位及びその一週間位後の二度に亘つて電話で本件事故について通知しかつその頃参加人のえびの代理店をしていた訴外大山不二男にも重ねて電話で本件事故の通知をした、との旨主張し、右程度の通知があれば前記免責事由に該当しない、と主張する。

しかしながら、右通知については、これに副う証人上野博暉(行政書士で原告・被告両名が加入している株式会社宮崎県交通福祉協会えびの支部長)が存するが、右証言自体、参加人に対し所定期間内に書面通知をしなかつた合理的理由の説明はなく、電話通知の日時及び電話の相手の名前もはつきりせず、かつ、右通知の日時のメモ等の記録が全く存しない等右通知についての的確な裏付けを欠くうえ、〈証拠〉によれば、本件事故通知は参加人が事故受付したとき必ず記載する事故受付処理台帳に記載されおらず、当時本件事故についての参加人の調査が為された形跡もなく、参加人の代理店が共済金の支払請求を受けるような事故の発生の連絡を受ければ参加人に通報するのが通常であり、また、被告木室は本件事故後一年位の間は本件事故の損害賠償がいわゆる強制保険で済み任意保険にまでは及ばないと考えていたことが認められ、これらの事実及び右各証拠に照らせば、右証人上野博暉の証言は措信できず、他に被告木室及び原告の右主張を認めるに足る証拠はない。

却つて、右証人上野博暉の証言の右措信できない部分を除く右各証拠によれば、本件事故について参加人に対する通知は訴外大山不二男に対する連絡も含めて本件事故後六〇日以内には一切為されなかつた、と推認され、かつ、参加人への本件事故の通知的なものとして早い時期のものは、昭和五六年七月の本件共済契約の更新時に被告木室が訴外大山不二男(当時参加人のえびの代理店を経営)に対し本件事故の損害賠償がいわゆる強制保険で済んだという話を雑談程度にし、その前後頃に被告木室代理人でかつ原告からも本件事故の保険金請求手続の依頼を受けていた前記訴外上野博暉から参加人宮崎支店に対し本件共済契約による共済金(いわゆる任意保険)の支払請求書が送付されたことが認められるに過ぎない。

(三)  従つて、その余の検討をするまでもなく、右各電話通知の存在を前提とする右被告木室及び原告の主張は採用できない。

3  (約款の効力)

(一) 次に、被告木室及び原告は、本件共済契約の前記免責規定については、契約者等からの事故発生通知が遅れたことにより参加人が損害を被つた場合に参加人がその限度で共済金の支払を免れる、との趣旨の規定であり、本件事故に関しては仮に通知が遅れたことがあつたとしても参加人に具体的不都合は生じていないから、参加人が右免責規定の適用を受けることはできない、との旨主張するので、この点を検討する。

(二) 本件約款において、契約者に事故発生通知を義務付け、その通知が所定期間内に為されなかつたときは本件共済契約に従つた損害の補填が受けられない、旨を規定するのは前記のとおりであるところ、右通知を義務付けた趣旨は、参加人が事故の発生を早期に知つてその損害の調査、損害拡大の防止等に関して的確な処置をする機会を得るためのものであり、右損害不填補規定は、参加人が右事故調査及び事後措置の機会を失したことの不利益を契約者へ転嫁する規定である、と解される。

そして、契約者が過失により参加人に事故通知をしなかつた場合には参加人は然したる不都合を生じなくとも共済金の支払全部を免れるとすれば、本件約款の右免責規定の趣旨に反する不合理な利益を参加人にもたらすこととなり、契約当事者間の衡平を失し、ひいては、右約款の規定自体の合理性をも損なうこととなる。

従つて、本件約款の右免責規定は、参加人が事故発生を知るのが遅れたことにより被つた具体的不利益を考慮せずに一切の損害補填をしない趣旨とは解しえず、右通知が遅滞したことにより参加人が、例えば事故調査に支障を生じ或いは損害拡大防止措置を取る機会を失する等して損害を被つたときは、その被つた損害の限度で損害の補填の義務を免れる、との趣旨と解するべきであり、こう解することが、右規定の趣旨に照らし合理的であり、契約当事者間の衡平に適なうところである。

(三)  そこで、本件約款の右免責規定についての右解釈を前提に本件を見ると、参加人が本件事故を知るのが遅れたことにより被つた具体的な不利益については、本件訴訟における立証上の困難性に関する点も含めて、その主張立証はない。

却つて、〈証拠〉によれば、原告及び被告木室は、前記株式会社宮崎県交通福祉協会えびの支部の会員であつて本件事故についての保険金(共済金)の請求は右会社えびの支部長訴外上野博暉に一任していたところ、同訴外人が参加人への通知を所定期間内にせず、昭和五六年頃になつて参加人に前記共済金請求をしたが、右請求を受けた当時においても、参加人は、本件事故について、損害拡大防止の機会を失することは考えられるものの損害自体の調査は可能であつたところこれをせずに昭和五七年四月になつて被告木室から事情聴取をしていること、が認められ、右認定を左右するに足る証拠はなく、これによれば、参加人が、本件事故を知つたのが遅れたことによる具体的不都合は殆どなかつたものと推認される。

のみならず、本件訴訟においては、参加人も当事者として加わつて主張立証を尽す機会を持ち、その主張立証に基づき、前記被告両名の責任となる原告の損害額が算定された、との訴訟経緯は当裁判所に明らかである。

(四)  従つて、右のようにして算定された前記損害額については、参加人は本件事故の通知を受けるのが遅れたことによる何ら具体的不利益を被つていない、というべきであつて、前記免責規定により転嫁すべき参加人の不利益がない以上、参加人が右免責規定によつて本件共済金の支払を拒むことはできない、というべきである。

4  右1乃至3によれば、その余の検討をするまでもなく、前記三で認定した本件事故による原告の損害のうち被告木室に責任ある金額については、参加人において、契約者である被告木室及び被共済者である原告に対し、本件共済契約により、いわゆる強制保険による前記三3の認定にかかる補填額を超過する分につきこれを補填する義務があり、これについて本件約款の右免責規定に従つた支払拒絶をすることもできないから、参加人には、右認定にかかる損害額については本件共済契約に従つた共済金の支払義務が存在し、右認定にかかる損害額を超える分についてはその支払義務が存しないことになる。

六結論

以上によれば、昭和五八年(ワ)第七五号事件の原告の被告両名に対する請求は、原告が被告各自に対し、それぞれ前記四4で認定した本件事故の損害賠償金九三万八六二六円とこれに対する履行期の後である昭和五八年一月二九日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金との支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、昭和五九年(ワ)第八六号事件の参加人の原告・被告木室に対する請求は、参加人が原告・被告木室のそれぞれに対し、右四4のとおり右昭和五八年(ワ)第七五号事件の認容額を超過する額についての本件共済金の支払義務についてその不存在確認を求める限度でいずれも理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、九四条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官千德輝夫)

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